色銀箔の世界。
ここ数年の活動はジュエリーが大半を占めているのですが、実際のところは、切り絵アート、額装アートを中心としていました。
ジュエリーを始めてから数年、このアート部分をポップアップの際のディスプレイとして世界観を見せる、ということをしていたのですが、素材を金箔にしてから、なんとなく質感が合わなくなり、今の活動に合った新しい作風を考える必要がありました。
去年あたりから、「色銀箔」というのをジュエリーでも頻繁に使うようになり、色銀箔と箔用の道具を用いた様々な技法で色々と表現をしてみて、とても面白いなあと思っていました。
その色銀箔と金箔とを用いて、これまでの紙のジュエリー、「KIRIEBIJOU」と作品とがリンクした世界を新しい作風としてみたいと考えるようになり作ったのがこちらです。
切り絵で切り出した木を中心に、
幹の部分は、特殊な紙にプラチナ箔を貼ったもので作っています。
背景は、岩絵具を使って、ぼんやりとした空気の揺れを表現しています。
金箔は、世界でも日本の文化として誇れる伝統的素材の一つですが、実は、色銀箔も、日本の文化というか、独特の美意識の現れてもあります。
世界各国での銀の歴史も長いのですが、日本のように、あえて燻したり色を乗せたりして、銀本来の輝きからは遠く離れた独自の渋みを出すというのは、美意識としても独特な文化です。
本来銀は、その輝きを楽しんだり、もっと大昔は、王様が毒をもられないように、毒に反応しやすい銀を用いた食器を使ったり、ということで、その輝きをたやさないように常に磨いているものでした。
そうした銀にあえて渋みを出したり、色をつけたりすることで、日本でしか見られない素材の魅力というものが生まれますし、箔による表現の幅も広がります。
通常は、私は金箔と、シルバー系の色をだしたい時にはプラチナ箔を使うのですが、色銀箔については、一番初めに使ったのは深い藍色のマーブル調の色銀箔で、その色味がなんとも古代風というか、そういった世界観を表現するのにとても合っていたからでした。
金箔で古代風、アンティーク風を出すのは私の中では定番になっているのですが、この色味に出会ったときには結構衝撃でした。
というのも、私の作品の世界観の根底は、中近東文化のオリエンタル美術品から多くの影響を受けています。幼少の頃、数百、数千年前の古代美術品に囲まれて育った経験があるからです。
この深い藍色の色銀箔は、例えば、古代エジプトで出土された、「青釉ファイアンス魚藻文碗」や、「青釉ファイアンス扁壺」、「青釉ファイアンス羽を広げたスカベラと四神像」等の青にとてもいのです。
もう少し薄い色味では、「ファイアンスウジャット」や、「青釉ファイアンスイシスとホールす像」、さらにグリーン系のものでは、「ファイアンスペクトラル」等の色味に非常に近い。
また、近いだけでなく、箔でそれを表現しようとすると、こうした美術品が数百年、数千年の時代を超えて現代にひょっこりと顔を出し、風化しつつも、どうにか原形とかろうじて色合いを維持したまま私たちの目に飛び込んできた、そんな数百年、数千年の「時の美」を表現することができるのに、とても感動しました。
今回はエジプトの古代美術のことが多いですが、金箔も実はエジプトが最古。エジプトで始まって、今は日本が世界一の技術を誇る、というのも、感慨深いですね。
さて、そうして様々な影響と感動を小さな形にしたのがこちらです。
下地の黒漆をわざと見えるようにすることで、煤けた感じ、風化していく世界観を作っています。こちらを百貨店等でご覧になる方は、「吸い込まれるような青ですね」とおっしゃってくださいます。
私も、この吸い込まれるような深い青に一目惚れして、そこから、色銀箔にはまって行きました。
そうして1年ちょっと色銀箔でのジュエリーを作った末、行き着いたのが、色銀箔をまるで絵具のように表現した切り絵作品です。
やっと、新しい作風にたどり着いたなあ、と思いました。
ジュエリーの世界にもリンクできるし、何よりも、切り絵と箔とが絶妙にマッチするのが楽しい。
私が昔「切り絵工房」を出版したときは、まだ切り絵作家は数えるほどしかいませんでした。けれども、少し活動をおやすみしていたら、久々に活動を開始したときには、魅力的な作家さんで溢れています。
うんと細かく切る人、伝統工芸を上手に自分の作風にしている人。出版物も、だいぶ増えました。
そんな中で、以前の作風で勝負するわけにもいかない、と思い、色々と考えていたのですが、それを無理やり捻り出そうとしても、何より自分でやっていて楽しくなければ意味がありません。それはどの業界にも当てはまることだと思うのですが、とにかく、楽しい、と感じたら、モチーフだけは次から次と出てきます。それを表現できる時間が欲しい!
そう思っていたら、しばらくポップアップでゆっくり作品を作る時間が持てなかったのですが、自粛期間中に、温めていたモチーフに取り組む時間がポッカリとできました。
自粛明けの今も、去年の今頃のように、あちらこちらにポップアップで忙しくなることはしばらくはなさそうなので、こんな雰囲気の世界観をどんどん形にしいけたらなあと、少しづつ、伝統文化とモダンとの境の世界に取り組みたいと思います。
Tree of Jewelry ~木漏れ日〜 一つの作品ができるまで