切絵作家の美意識

切り絵作家の活動、美意識等を書いていきます。

世界に広がる切り絵の世界

切絵は、繊細でありながら力強い存在感を放つ、とても魅力的な世界。

そんな切絵の歴史や文化について、少し御紹介します。

 

 

 

 

光と切絵との関係〜バリの切り絵

 

切絵の魅力の一つに、光との相性の良さがあります。

光を通して切絵を見た時に、今まで主役であった輪郭線が影となり、

空白の部分がその役割を受け継ぎます。

 

光も影も主役なのです。

 

バリの伝統的な人形の影絵劇、ワヤン・クリでは、

皮で細工された人形や背景等に美しい切り模様があります。

観客は両面から人形そのものの模様も、

影絵としても楽しむ事が出来るように作られています。

 


ワヤン・クリ

kentkenyamaさんのyoutube投稿より

 

ロシアの美しい折り切絵

 

冬が長く寒いロシアでは、

雪の結晶の折り切絵が古くから親しまれています。

 

古代ロシアの白樺の透かし模様の皮細工がその由来と言われていますが、

紙で出来たとけない雪の結晶を窓やランプシェイド等に貼り、

日常の楽しみにしています。

 

 

 

 

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ロシア風雪の結晶折り切り絵

 

このような絶妙な持ち味は、どの分野にも見られない表現で私たちを魅了します。

切絵が広く深く、世界中で愛されている大きな理由なのではないかと思います。

 

(2020年6月現在、「90の図案で作るロシアの折り切り絵の世界」を作成いたしましたので、宜しければご覧いただけますと幸いです。) 

 

 切り絵の文化、日本では・・・

 

様々な伝統文化に関わりをもつ切絵ですが、

日本では着物染めの型紙としての職人技であったことは広く知られています。

 

沖縄紅型→伊勢型紙→江戸小紋 と、都にわたるにつれて

その模様もどんどん緻密になっていくのですが、江戸時代では、

模様が細かければ細かいほどファッショナブル!だったのです。

 

以前紅型教室に参加させて頂いた事があります。

 

 

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沖縄紅型、あさがお

 

型紙は大柄で味のあるものが多く、中国に近い事から、

染色の色使いも、中国の伝統的な色合いの影響が強く残っています。

 

染めの作業は紙の抜き部分にノリをのせて布地の型抜き部分が染まらないようにし、

染めの色を選んで重ねていくのですが、これがまた時間がかかります。

 

江戸小紋を染めようとなると、その手間は想像もつきません。

 

一つの着物が仕上がる過程の型抜きから染めまで、

いかに手のこんだ作業であるかがわかり、伝統工芸の貴重さを感じました。

 

型抜きに使われる型紙は渋紙といって、柿渋から出来た丈夫な紙。

筆で何度もこすられ、染色に使われても長持ちする丈夫な紙で、

これを作るにも職人技が必要ですが、その生産技術そのものが

減っていく時代ではこれもまた貴重な品になっています。

 

そう考えると、切り絵の型紙が用いられた着物には、

職人、職人、また職人の技が必要となり、

本当に手間のかかる貴重な存在である事がわかります。

 

量産化が劇的に進む現代では、こうした貴重な伝統が守られていく為に

私たちが出来る事は何かを考えさせられます。

 

 

 

切り絵の発祥の地

 

「透かし彫り」の工芸品は古くからどこの国でも見られますが、

昨今見られるような細かい細工・絵柄の切り絵が広まったのは

中国からである、と、多くの人が考えているようです。

 

中国からシルクロードをわたりヨーロッパへ、

海を渡り日本へとその文化が流れているのは確かなのですが、

中国へはどこからやってきたのか。

 

実はインドが発祥である事をご存知でしょうか。

 

出版社が発行している切り絵関係の本でさえ、

切り絵の発祥は中国である、と掲載している事を考えると、

あまり知られていないのではないかと思います。

 

インドでは、切り絵で出来た型紙に砂をまぶして、

型紙を抜くとそこに砂でできた繊細な模様が浮かび上がり、

それを神聖な祈りの儀式として使っていたそうです。

 

日本では、宮崎県高千穂町で魔除けの神事としても使われています。

 

美しい僧職・工芸品、染め物用の型紙というだけでなく、

そうした神聖で神秘的な用途に使われている切り絵や透かし彫りは、

いつの時代も人を魅了し、多くの国々で「伝統工芸」として

その国なりの進化を遂げながら、脈々と受け継がれているのです。

 

最近切り絵人口も増え、まだまだマイノリティーではあるものの、

切り絵関連のアーティストさんや商品が増えているからこそ、

その世界の興味深い歴史も含めて、広く深く知られてゆくと良いなあと思います。

 

 

(もし、ここ1〜2年で、「切り絵の発祥はインド」っていうのが

切り絵業界での常識的知識になっていたら、少しは貢献したかも??

って思ってもいいかしら????なんてね笑)