切絵作家の美意識

切り絵作家の活動、美意識等を書いていきます。

星の王子さまを読み解く~コルシカ島に消えたサン=テグジュペリ

 


星の王子さま」モチーフ切り絵作品 着色/ osamu misawa

 


小さい時から星の王子様が大好きで、いまだに、節目節目で読み返す、という方は多いのではないでしょうか。フランスではバイブル的存在です。
 
その星の王子様を元に、名シーンの切り絵をいくつか作り、映像にしたことがあります。

今回は、これほどまでに多くの人たちの心を震わせた、幻想的で純粋ながらも

大人の心の奥底を突っつくような物語を作ったサン・テクジュペリの人物像についてを

考えたいと思います。

 


星の王子様 / The Little Prince



 

サン=テクジュペリは、1900年フランスのリヨンで


5人の兄妹の3番目として生まれました。



 

 

父親は伯爵で、4歳の頃にその父親を無くし、


その後母方の保護により、モーリスの古い城館で

少年時代を過ごします。

 

 

 



12歳の頃初めて飛行機に乗り、それについての詩が

教師に褒められ、その後作文の時間に書いた

 



「ある帽子のオデュッセイア



 

 

が、学校内の最優秀作文賞に選ばれる等して、

その文才がひょっこりと顔を現します。



 

同時に、1914年、第一次世界大戦始まります。



翌年スイスに渡り、聖ヨハネ学院に寄宿生として入学。

 



バルザックボードレールドストエフスキー等を読み、

試作や寸劇の脚本を書きはじめます。

 




 

 

 

サン=テクジュペリの文才は、

こういった少年時代の経験から培われていきます。



 

特に古い城館での想い出は大きな影響を与えています。



 

城の中で、子供達は家政婦達にちょっかいを出してみたり、

母の暖かいまなざしのもとで、音楽や美術等の才能がゆたかに

 

育つように、のびのびとした教育を受けていました。



 

当時トニオという愛称で呼ばれていたサン=テクジュペリは、

詩を書くと兄弟姉妹の前で朗読し、たとえ真夜中であっても

平気で母を叩き起こし、作品についての意見を

たずねたりしていました。

 




 

そんな想い出深い時代を過ごした城は、1932年、

色々ないきさつから売却する事になり、

彼の中での記憶はよりいっそうなつかしいものとなります。

 



学生時代を終えたサン=テクジュペリは

直ぐに作家になったのでは有りませんでした。

 



922年に民間操縦士と空軍操縦士の資格を取り、

その後、幾度かの事故を起こし、決して良い操縦士とは

言えないものの、彼にとって空を飛ぶという事が、

次第に空気を吸うのと同じくらい

日常に密接した関係を保つ事になります。




 

同時にそういった空での経験や同業者同士の絆を

語った物語を出版する等、文章の能力も発揮してゆきますが、

1943年「星の王子様」出版後の44年、



 

「ドレス・ダウン6号よりコルゲートに、滑走離陸してよろしいか」

 



の言葉を最後に、コルシカ島のあたりで

こつ然と姿をけしてしまいます。

 




 

 

「星の王子様」には、彼の輝かしい少年時代と、

第一次、第二次世界大戦の時代の経験を通し、

~主義や~派等のついたさまざまな大人の人達を目にした事、

愛しい人への複雑な想いや飛行士としての孤独等が

全て凝縮され、多くの人達に解り易い形となって書かれています。

 



 


星の王子さま/内藤濯 訳

 



 


星の王子さま」以外の本は、どれもこれも

難しく一冊読み終わるのに一苦労するのですが、

所々にこの物語を読み解く鍵がちりばめられています。




 

サハラ砂漠での遭難を何回か経験し、その壮絶な経験を

 



「人間の土地」

 



に書き記していますが、過酷ながらも美しく輝く

砂漠の彼方での出来事や気持ちの変化を飛行士にのせて、

星の王子さま」の物語が生まれます。




 

 

 


人間の土地

 

 




 

 

「人間の土地」に書かれている

 



「経験はわれわれに教えてくれる。




 

愛するとは、たがいに見つめ合う事ではなく、

ともに同じ方向を見る事だと。」



 

という言葉は、

 



 

「大切な事は、目には見えない」

 



という、王子様のあまりにも有名すぎるメッセージと、

どこか共通するところが有るように思います。

 



 

「互いに見つめ合う」

 



一緒の時と場所を過ごしながら向き合うという、

とても大切なことですが、

 



「ともに同じ方向を見る事」

 



これには、たとえ場所と時間が違っても

その存在を感じながら、共に前を向いて歩んでいる、

その一つの真実だけで充分である、という、更に尊い

関係性の意味合いが込められているように思います。

 




 

「僕たちは夜空を通して繫がり合っている」



 

自分がこの地にいなくても、空を見上げれば

心はいつも一緒だという事がわかるよ、

そうメッセージを残して王子様は、

飛行士の目の前から音も無く消えてゆきます。

 





 

 

物語はそこで終わるのですが、

飛行士/サンテクジュペリの物語はまだもう少し続いていくような錯覚をする人も多く居ると思います。

 



コルシカ島で消えて、再び戻ってくる事は無かった、

そんなことから、ある種の神秘性というか、まだどこかで

物語が続いているのではないか、という想像や希望を

残して姿を消していく。

 



もしかすると、そうして消えて行く事を彼自身が

のぞんでいたのではないか、と思わされる程、

幻想的に人生の幕を閉じるのです。