切絵作家の美意識

切り絵作家の活動、美意識等を書いていきます。

生きた英語の学びを支えたクリエイティビティの価値

アメリカに滞在中のこと。

 

 

私は、高校時代の3年間、アメリカの寮生活をしていた事があります。

 

その時に経験した様々なことは、今の活動や価値観、創作にも大きく影響しています。そのあたりのことを、友人たちの似顔絵をご紹介しつつ、お話ししたいと思います。

 

 

私が切り絵に目覚めたのは中学2年の時でしたので、アメリカに行った頃にはすでに創作をしていました。

 

英語は全くできず、よくあんな乏しい語学力でアメリカに旅立ったものですが、英語って、学ぶよりも体で覚えろ、という感じでした。

 

 

 

五感で学ぶ語学のススメは、今でこそ増えてきていますが、昔は勉強のため、テストのための英語、というのがほとんどの時代でした。

 

それでも私の母校では、カナダ人の先生が英会話を教えてくれたりして、生きた英語に触れるのには恵まれた環境だったと思います。語学を上達させるには、やはり生きた英語に触れるのが一番。生きた英語に触れることで、カルチャーも同時に学ぶことができます。

 

 

とはいえ、ほとんど語学の準備なしで来たアメリカでは、英語に慣れてくるまでの間は、切り絵が唯一のコミュニケーションツールでした。

 

 

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「言語、カルチャーの垣根を超えるもの」を体感して、自分の創作世界で友達ができるなら、たくさん作ろう!というモチベーションにも繋がり、さらに親和を深めていくために、友人の似顔絵を描くことからはじめました。

 

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友達に一枚描いてあげたら、自分の記録と練習に、もう一枚描いていました。

 

 

それが学校の寮の中で噂となり、日に日に似顔絵を依頼する人が増えてきて、そんな創作活動を通して、言葉はわからないけど、なんとか友達を作っていけた、という感じでした。

 

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いくつか年下の人にも頼まれました。



 

先生に、「お金を少しでももらったら?」といわれたので、だいたいの平均金額だけを決め、あとは好きな額を払ってください、という形でしばらくの間似顔絵屋さんをしていました。これが、クリエイティブで利益を得る、という一番最初の出来事です。



先生の口から「お金をもらったら?」という言葉が出てきた辺り、かなりカルチャーショックでしたが、さすがアメリカだと思いました。

 

日本では学校では「稼ぐには」ということを教えてくれませんし、そうした話題も、美徳に反するという意識が根底にあり、あまり「どうやって利益を得ていくのか」というのを表立って話す人は少ないです。

 

 

私も大好きなスヌーピーの漫画の中では、ルーシーがレモネードなんかを販売しているシーンありますよね。確かルーシーやチャーリーブラウンたちは8歳前後くらいだったと思うのですが、日本では、漫画の世界でもあまり見られないシチュエーション。

 

「自己責任」の意識が強いのも、大人になる前からいろいろなところで自立心を吸収しているのがアメリカ人なんだなあと感じていました。

 

 

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先生のお子さん。

 

学校の先生からのアドバイスをいただき、似顔絵1つに対して、3〜5ドル程度で依頼を受けることにしました。切り絵も、小さいものですが、ディテールによって、3〜10ドル、高くて25ドルくらいで販売をすることに。

 

 

 

 

 

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いつもダイエットのことばかり考えているブレンダ

 

 

ブレンダ。彼女は、とってもやかましい人で、最初は少し苦手意識をもっていました。ところが、「では似顔絵を描きましょう、座ってじっとしてね」と、静かにしてもらったときに一瞬で表情の深さを表に出してきたのです。

 

おそらく本人は気がついていないのですが、それ以来私は彼女が周りからうるさい、うるさいと、冗談半分本気半分でけむたがられているときも、常にその深さを意識するようになりました。とても印象的な人でした。

 

 

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メリッサ&リサ

 

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エミ。今風の日本人だったけど、話して見ると結構熱い。気使いやさんでした。

 

 

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Mimi Wutz。猫が好きで、ものすごく陽気な先生でした。いつも哲学的なことを色々と考えていて、豊かな言葉に、生徒達は彼女の前ではおとなしくなります。私をいつも気にかけてくださっていました。

 

 

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Annie

 

ずっと寮生活をしていたので、何人かのルームメイトとの生活を経験しましたが、私にとって一番心に残っているのはスペイン人のAnnie。アメリカ生活最後のルームメイトでした。

 

彼女とは一目会った時から意気投合し、仲良くなりました。いつも「ノソトロスアミガス!(私たちは友達だよ!)」と、底抜けの明るさで周りをハッピーにしてくれるメキシコの人たちとも、彼女のおかげで仲良くなり、賑やかな仲間が一気に増えました。

 

 

 

在学最後の年に、初めての個展を、学校の図書室で開きました。企画提案した時、先生方も快く受け入れてくださり、そこで、プロとして作品を見ていただくことのはじめの一歩を経験させてくださいました。

 

本当に、粋な教育でした。学校で学べること、本来学ぶべきことを、一通り経験させてくださったように思います。

 

 

卒業式の時。卒業証書を受け取る際、本名の間に「タンタン」を入れて読み上げられ、いつのまにかミドルネームになってるなーと思いました。後で先生方に聞いたところ、「本名だけだとあなたがだれか、っていうことがわからないでしょ?」とのこと。

 

うーん、さすが。個を重んじるアメリカならではの発想。

最後の最後まで粋でした。

 

 

トータルでは、アメリカ人やっぱり食も性格も大味だなーとか、食がなかなか合わなくて結構大変だなーとか色々ありましたけれど、(マックでジュースLサイズ頼むと顔くらいのバケツのようなコップで渡されたりね ^^;)とにかく、先生方も生徒さんたちも、クリエイティビティと技術があるなら、その道に進んで食べていくんだよね、と、当たり前のように言ってくれるので、なんの迷いもなくクリエイティブの世界に邁進していく事ができました。

 

 

こうして、「切り絵やクリエイティビティが言葉の垣根をこえる」ということ、プロフェッショナルとしての腕があるなら、小さなところからでも、「腕にみあう対価は受け取るべき」という概念を、早い段階から実践を通して学ぶ事ができたと思います。

 

 

デザインや絵画等、「時間給」では測れない価値を理解するのはとてもむずかしい。でも、一つのものが目に見える形になるまでに、実際に作っている時間だけでなく、経験してきたこと等、もっと奥深くにあるものが何層にも重なっているんですね。

 

時代が大きく変わり、付加価値についてを多くの人が考えるようになった今、そんな付加価値が大切にされていく世の中は、日本でも、もうすぐそこにあるような気がします。