切絵作家の美意識

切り絵作家の活動、美意識等を書いていきます。

ロンドンの美術品投資市場

 

 

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ビジネスデザインセンターアートフェアビジネスより



1月のパリでの出展が終わった後、パリの北駅からユーロスターに乗って、 ロンドンに行き、ロンドンについたその日に開催がスタートしたアートフェアを観に、ビジネスデザインセンターへと足を運びました。

 

そこで目にしたのは、質も規模も価格の桁も、芸術をすんなりと受け入れられる国民性も、日本とはまるで違う風景。

 

色々とまのあたりにして、日本での芸術そのものの展開の難しさを改めて突きつけられました。

 

何が違うのかが具体的にわかる、わかりやすい例を一つ、ご紹介します。

 

 

 

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ロンドンビジネスデザインセンターアートフェアより

 

例えば、この絵。ずばり、おいくらだと思いますか?

 

 

 

こちらは、およそ8万5千ユーロ。

日本円にすると、およそ1千万円近く!

 

無名から中堅の作家さんの絵にこうした高額が付けられているのを見て、ちょっとショックを受けました(^^;)

何がショックかって、日本のアートの売買と比べて、あまりにも桁違いで。

 

ロンドンの投資家は、このような高額になりつつある作家さんの作品を、投資がわりに購入をしています。

 

日本だと、100万円をこえる作品だと、かなり高額と感じるところですけれど、ロンドンでは、100万円以下の作品は、安すぎて逆に買う価値がない、と思われてしまいます。

 

投資家が買うタイミングも、徐々に作品が値上がりしてきているタイミングを見て、まさに今後の資産価値を見越して購入を決めます。

 

 

価値の付け方も、日本よりも難しそうですね。

 

 

tagboat の、コロナ時代の「アートとお金の関係」には、美術品投資の実情がわかりやすく書かれています。他、アートとビジネスの記事等も面白く、おすすめ!

 

また、ロンドンでは、いかに教養のあるウンチクを語ることができるか、というのも、その人のステータスを表す手段の一つになります。

 

一つ一つの作品を、美しい、綺麗、デザイン性がたかい以上に、この作品が生まれてきた経緯はどんなだったか、作品が私たちに与えうる価値は、素材はどんなもので、どんな文化的背景がある技法を使っているか、等、あらゆる側面を掘り下げて、一つひとつのストーリーを大事にします。

 

小さい時から、アート等の教養が当たり前のように身近に添えてきたイギリスの人にとって、それは当たり前のことなんですね。(ご存知の方も多いかと思いますが、イギリスでは、美術館や博物館に無料で入れます!)

 

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ビジネスデザインセンターアートフェア。

スペース的には東京ビッグサイトよりもかなり小規模ですが、

動いている金額がすごいです!

 

このように、ロンドンでは、芸術への投資がとても盛んです。

 

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立体アート、切り絵のような感じで、クラフトアートが展開されていました。

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同じシリーズの色付き。切り絵みたい。

 

 

投資家の美術品投資等は、すでに有名な亡くなっている作家さんのものばかりではなく、まだ無名の作家に行われることから、ロンドンの美術市場がいかに進んでいるのかがよくわかります。

 

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LEDライトが内蔵された車の絵。絵画も、時代とともに進化します。

 

 

日本でも、芸術は少しづつ浸透してきてはいるものの、飛躍的に伸びていくには限りがありますね。

 

これはあくまで私が感じたことなのですが、日本では、一般家屋のサイズ的に、美術品を壁に飾ったり、インテリアとしてオブジェ等を装飾するには、スペースとしてちょっと限りがあります。

 

 

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陶器のような色使い

 

そもそもスペースに限りがある中で、大陸からの芸術感覚を持ち込んでも限界があります。また、美術品をコレクションする、という文化も定着していません。

 

朝、昼、晩と、一日の時間の流れに沿って、絵画も朝焼け、昼間、夕焼け、夜と風景画移り変わる、最新のアート!鳥が羽ばたくの、見えましたか?

 

CGのようなモビール

 

 

かといって、日本には日本なりのクリエイティビティと、美の発展の仕方があります。

 

日本では、「芸術」は伸びにくい傾向にあるけれど、物凄いポテンシャルと丁寧な腕で、世界に誇れる工芸技術というものが数百年にわたり培われていて、そのクウォリティは突出しています。

 

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金箔を用いて描かれた街の地図。

惑星のクレーターのようにも見えますね

 

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海の部分が金箔で表現されていて、ダイナミックな世界地図!

 

私が頻繁に扱っている金箔も、日本の金沢が世界一!

そして、そうした精密な職人技で作られた素材を、さらに職人さんや絵師が、屏風等対象物に使います。様々な職人さんが関わって出来上がった品は圧巻です。

 

 

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こちらも、金箔が使われています。金箔を素材として扱う作家さん、結構多いです。

 

 

 

 

浮世絵も、絵師、堀師、摺師と、何人もの職人さんの技を経て、一つの作品に仕上がります。ちょっと、西洋の美術の仕上がり方と違いますよね。

 

 

 

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日本画も、ヨーロッパの作家さんに大きな影響になっているようです。

 

 

金箔については、パリの出展では、去年も今年も、素材は金箔ですよ、というと、ほぼみなさんニッポン!を連想してくださり、そのあたりに説明がいりません。金箔を扱うこと、すなわち、和を背負って世界を歩くこと!

 

 

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ちなみに、金箔の一番最初の歴史は、古代エジプトから始まった、といいます。

エジプトから始まり、日本が世界一の技術を誇る・・・

なんだか感慨深いです。

 

 

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大英博物館にて

 

他にも、着物や食器、扇、ふすま、絵巻物等、あらゆる生活必需品の中に、そのクリエイティビティと質を溶け込ませるような形で、工芸美術品が発展しています。

 

妥協を許さず、自然界のものを利用して、素材の性質を知り尽くした上での様々な表現法で、最終的に完成する品々は、勤勉な日本人ならではの美のあり方なのではないかと思います。

 

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大英博物館にて

 

日本ではとても独特な美意識があり、浮世絵なんかも19世期にヨーロッパに渡って、ジャポニズムの時代を生み出したくらいですから、多くの芸術家が日本の美に憧れを抱き、多くの作品が生み出されています。

 

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大英博物館にて

 

そしてそうやって生み出された西洋絵画にさらに感化された日本人が、再び深みのある美術品を生み出したりします。

 

そんな背景もあるので、日本は日本の従来の良さで世界に勝負すればいいですよね。そして、そんな日本のポテンシャル溢れる作品たちが、一つでも多く、世界の美術品投資の対象に仲間入りすればいいですね!